頃は紅葉の頃。「黒川通り」後半部は、先回の青梅街道散歩の時に撤退した黒川谷の辺り以外は崩壊箇所もないようでもあり、美しい紅葉を楽しみながら、などと出かけたのだが、これまた予想に反し結構厳しい散歩となった。不要だろうとは思いながらも持参したロープが有り難く思えた一日とはなった。
本日のルート;三条新橋広場;9時20分(標高771m)>黒川谷へ>黒川橋跡:9時47分(標高887m)>第Ⅰ崩壊箇所;9時50分(標高881m)>石組の道に復帰;10時5分(標高897m)>黒川谷の尾根筋先端部を迂回;10時12分(標高930m)>倒木が道を遮る>第Ⅱ崩壊箇所;10時30分(987m)>石垣の道>東京都水源林の木標;10時59分(標高1023m)>尾根筋の回り込み部>崩壊橋台跡;11時7分(標高1046m)>第Ⅲ崩壊箇所;11時13分(標高1023m)>石垣の道>第Ⅳ崩壊箇所;11時21分(標高1011m)>石垣の道>沢;11時48分(標高1001m)>林班界境;11時53分(標高1008m)>柳沢川の支流;11時分56分(1000m)>大東橋台跡;12時1分(1023m)>藤尾橋:12時6分(標高1014m)
三条新橋広場;9時20分(標高771m)
自宅を出発し、先回と同じく中央高速から圏央道に入り青梅ICで下り、そこから国道411号・青梅街道を進み丹波山村、そして黒川通り前半部散歩で車をデポした船越橋を越え、三重河原で国道を離れ三条橋を渡り、泉水谷林道ゲート手前の三条新橋広場に車をデポする。
黒川谷へ
デポ地点から最初のポイント黒川谷に架かっていた黒川橋跡に向かう。そこまでは道は御老公との青梅街道散歩の折歩いているので、迷うことはない。実のところ、「黒川通り」後半部を三条新橋広場からスタートするとき、上下二段の道筋あり、どちらか迷いながらも、下段の道はあまりに川床に近いため林道ゲートに近い上段を進んだのだが、それが正解であったわけである。
割と幅広の上段道を進むと丹波川との比高差が大きくなるとともに、最初の頃の砂利道とは異なり落石など道が荒れてくる。ほどなく丹波川から黒川の谷筋に入ったとは思うのだけれど、谷ははるか下なのか川筋も何も見えない。
黒川橋跡:9時47分(標高887m)
落石・ガレ場などを越えて泉水谷の入口から600mほどのところで突然広場が現れる。そしてその先に二段の滝が見える。滝脇にはコンクリート製の橋台跡が残る。明治の頃開かれた道に架けられた黒川橋の名残であろう。滝と風雪を経た橋台跡の組み合わは誠に美しい。
第Ⅰ崩壊箇所;9時50分(標高881m)
橋台手前にある木橋を渡り黒川谷左岸に。ここから左に黒川谷を上れば黒川金山跡。一方、廃道となった新青梅街道・黒川道は右に進む。進むはずなのだが、右に進む道や踏み跡さえもなく、谷に沿って下る崖面は広い範囲に渡って完全に崩壊しており、谷筋には立ち入り禁止のサインがあった。ここが先回の青梅街道散歩の折、道筋がわからず撤退したところである。
「黒川通り」は、もっと上を高巻きしているのだろうか、などとあちこち目安を探すが結局見つからず、正確な地図も無いし、それほど廃道萌えでもなさそうな御老公には申し訳ないし、それよりなによりのゴールの裂石からのバスの便が気になり、先回はここで撤退したわけである。
石組の道に復帰;10時5分(標高897m)
今回はこの崩壊箇所の先にある道筋を探すことからはじめる。崩壊箇所はガレ場をトラバースするのは砕石が足元から崩れ落ち、難しそう。結局谷筋を少し下り、山肌を注意しながら崩壊先の道跡を探すことに。
沢に入りを10mほど下ると、左手上に石垣が見える。そこが崩壊先の道筋であろうと、崖を力任せによじ上る。上る先から岩が崩れ落ちるといった有様ではあるが、崩壊箇所のガレ場ほどの崩れ感はない。慎重に足場を造りながら急場を上るとしっかりした山肌に上りついた。
その上に石垣があることを確認し崖下を見ると、這い上がったところから少し下った辺りまで沢を下れば比較的傾斜の緩い崖となっている。パーティのSさんには沢を下ってもらいそこから登ってもらう。そこからは少し急ではあるが、足場がしっかりしている崖地をのぼり「黒川通り」に復帰した。
黒川谷の尾根筋先端部を迂回;10時12分(標高930m)
崩壊箇所から復帰した道は石組みの広い道を、黒川谷にそって丹波川に突き出した尾根筋の先端部まで進み、そこで大きく先端部を回り込み丹波川に沿って進むことになる。
石組みの道筋と紅葉のコンビネーションがなかなか、いい。道は900mの等高線を緩やかに上りながら進む。迂回先端部は標高930mほど。川床から150mほどの比高差はあるのだが、谷への傾斜が緩いため川筋から大分離れている。
倒木が道を遮る
黒川谷の尾根先端部を回り込むと倒木が行く手を遮るが、道は広く快適な道筋である。迂回した辺りからは等高線950m辺りをゆっくり上ってゆく。こんな道がずっと続けばいいのだが、そんなわけにはいかなかった。
第Ⅱ崩壊箇所;10時30分(987m)
尾根先端部の迂回点から10分強で二つ目の崩壊箇所が現れた。足元は結構しっかりしているので、山側に重心をかけて慎重にガレ場を渡る。それにしても、谷筋からの比高差は200mほどあり、等高線も密であるので崖の傾斜は急であり、結構怖い。
石垣の道
崩壊箇所を越えるとしっかりと石組された石垣が美しい道が続く。「大常木トンネル」の東口辺りへと突き出た尾根筋、トンネルができる前の岸壁に沿った国道が南に突き出した辺りへと下る沢筋、「大常木トンネル」西口辺りへと突き出た尾根筋など、尾根筋と沢筋を等高線1000m辺りを進む。
トンネル西口の尾根筋を回り込むと少し緩やかな上りとなり1030m辺りまで上り、丹波川に一之瀬川が北から合流する辺りに突き出た尾根筋にゆるやかにくだってゆく。
東京都水源林の木標;10時59分(標高1023m)
丹波川と一ノ瀬川が合流したあたりに突き出た尾根筋の突端に「東京都水源林の木標」が立つ。山梨県であるのに何故に東京都の水源林、とのメモは先回の散歩でメモした通り。
「東京都水源林の木標」とともに、「林班界境7|9」が立つ尾根筋突端は、「一之瀬高橋トンネル」の真上辺りであろう。「一之瀬高橋トンネル」は、丹波川と一ノ瀬川が合流していた地点を通っていた国道のバイパスとして丹波川と一ノ瀬川の合流地点に突き出ていた尾根筋を穿ち、一ノ瀬川との合流地点を通ることなく、北に大きく湾曲する丹波川を西から東へと一直線に通す。
尾根筋突端部と川床との比高差は130mほどだろうか。尾根筋を廻った辺りは特に等高線が密になっており、絶壁となっている。下を見るのは少々怖いほどである。
■一之瀬川
一之瀬高橋バイパスを通ることなく旧道を進むと北から一之瀬川が合流する地点に一之瀬橋が架かるが、そこが丹波山村と甲州市の境ともなっている。この一之瀬川の源頭部は多摩川の源流点となっており、「水干」と称される。一之瀬川林道を進み、大常木谷を越え、一之瀬川、その上流の水干沢を詰め切った笠取山を少し南に下ったところにある、とのことである。大常木谷の上流には「竜バミ谷」といった沢遡上にはフックの掛かる沢も。多摩川源流部の「水干」ともども一度訪れてみたいところである。
因みに一之瀬、二之瀬、三之瀬といった一之瀬高橋の集落はその交易は秩父が主であった、とか。一之瀬高橋の北東にある将監峠を越えて甲州からは甲斐絹、麻布、紙。秩父側からは銘仙、相生織物、油、日用雑貨が運ばれた。
■おいらん淵
上で「一之瀬川」が丹波川に合流するとメモしたが、一之瀬川の源頭部が多摩川の源流、ということは、一之瀬川が本流であり、合流するというのは適切ではないかもしれない。
それはともあれ、一之瀬川が丹波川とその名を変える一之瀬橋より上流は「柳沢川」と呼ばれる。その柳沢川が、本流である一之瀬川・丹波川に合流する辺りに「おいらん淵」がある、という。
旧道沿いであり、現在は鉄条網で完全に封鎖され訪ねることはできないのだが、この「おいらん淵」は武田家滅亡の時、黒川金山の坑道を埋め廃坑とするに際し、遊女の処置に困り、この渓上の宴台を設け、滝見の宴半ばで藤蔓を切り落し滝壺に葬ったと言う。その数55名故に、五十五人淵とも呼ばれる。
異説もある。皆殺しになることを知った女郎は、秩父の大滝を目指して逃げる途中、今回の目的地である「藤尾橋」の下でつかまって谷に放り込まれた、と。断崖絶壁、道なき渓谷で宴を催すとの伝説よりも、ちょっとリアリティを感じる話ではある。
尾根筋の回り込み部
尾根筋を廻り込んだところから道に木立が茂る。どこからか種が飛んできて道上に育ったのだろうか。道も少々荒れてはいるが、崩れた道筋に残る石垣と合わさり、なかなかいい感じの景観を呈している。道は1000mの等高線から1030m辺りまで上る。右手下は、一之瀬高橋トンネルに入るヘアピンカーブの箇所である。
崩壊橋台跡;11時7分(標高1046m)
尾根筋突端部から7分程度歩くと、前面に岩壁が見える。後で分かったのだが橋台となっていたようである。岩壁手前まで進むと、岩壁手前に沢がある。この沢を橋で越えていたのだろう。
ちょっと見には結構厳しそう。果たして岩壁を上れるものか、沢に下り、岩壁に取り付く。調度いい感じで取り付く岩の出っ張りがあり、それほど苦労することもなく岩壁をよじ上った。
岩壁上の崖面には大きなロープが岩場に固定されていた。後からチェックすると、ここには鉄の梯子があったようで、その鉄の梯子を固定していたロープであったように思う。
鉄梯子が自然の力で流されたのか、人為的に外されたものか不明ではあるが、いくつかの崩壊箇所も昔は桟道が整備されていたと言うが、そんな桟道はどこにも残っていなかった。思うに、危険な廃道を歩くことができないようにしたのかとも思う。実際歩いてみて、危なさを実感し、その措置に納得した次第である。
第Ⅲ崩壊箇所;11時13分(標高1023m)
崩壊橋跡の岩壁をクリアするとほどなく、3番目の崩壊箇所が現れる。距離は5mから10mほどではあるのだが、崖下の傾斜が急であり、結構危険な箇所であった。崩壊中央部分にある立木まで慎重に足場を固めながら進み、木にロープを廻し、ロープに握りしめ崩壊箇所をクリアした。昔はここには桟道が架かった写真を見たような記憶がある。取り外されたのだろう。幅は短いが今回の崩壊箇所で最も怖かったように思う。
石垣の道
短いながらも危険な崩壊箇所をクリアし、倒木が道を覆う箇所を越え後は、しばらく石組みの美しい道を進むことになる。等高線100mから1010mといったところ。崩れた土砂が道に積み重なった箇所を越え歩を進めると、誠に見事な石組みの道が先に見える。石垣も相当高い。この廃道でのハイライト部分かと思う。
前回の散歩で、この「黒川道」開削に際しては、「財ある者は金、財なきものは労力を提供せよ。多数の囚人も動員された。全域に渡り秩父古生層で硬く急峻な山を削り、岩を穿つ。工具は玄能、石ノミ、鍬、万能。土砂や岩はモッコと天秤。岩道はすべて手掘り。爆薬も硝酸類だけといった貧弱な状態で工事は困難を極めた」とメモしたが、このような難路に石垣を築いたのは専門家でもなく、「財なきものは労力を提供せよ」と動員された地元の人々であった、とも言う。丹波山村で「黒川通り」の開通式が行われたのは明治20年(1887)であるから、100年以上、自然の脅威に耐えてビクともしない石組みの「技」が眼前に示されている。
木立の間から眼下に国道411号が見る。道は南に突き出した尾根筋を迂回し大きく湾曲している。柳沢川(丹波川の上流域の川筋)に突き出たこの突起部を越えれば最終地点の藤尾橋も近い。
国道を眼下に眺めたすぐ先に、石組みの道の上を崩れた土砂が覆っている。如何にも崩壊する前段階といった風情ではある。
第Ⅳ崩壊箇所;11時21分(標高1011m)
と、その先に巨大な崩壊箇所が現れた。ガレ場となっており、結構危険。アプローチを探すに、崩壊箇所の真ん中に立木がある。そこにロープを廻し、パーティを渡すことに。
足場を固めながらゆっくり、慎重に立木まで進み、そこで10mロープを2本繋ぎ、そのロープを握りしめて立木まで渡ってもらい、それから後半部を同様にロープを握りしめ慎重にわたり終える。おおよそ20mほどの幅がある崩壊箇所であった。
石垣の道
崩壊箇所を越えると、ふたたび石垣で支えられた平坦な道にでる。道には崩れた土砂が積まれた箇所もある。そのうちに崩壊箇所となるのだろうか。
沢;11時48分(標高1001m)
先に進むと沢に出る。柳沢川(丹波川の上流域の川筋)に突き出たこの突起部の西側辺りに下っているようである。清冽な水で崩壊箇所を渡るときに汚れた手、そして顔を洗い、気分爽快に。
橋跡といった遺構は見あたらなかった。どのようにしてこの沢を越したのだろう。
林班界境;11時53分(標高1008m)
沢を越えると道一面に落ち葉の絨毯といった美しい道が現れる。空も開き、右下の国道との比高差も50m強といったものになる。
道を進むと林班界境。「林班界境 荻原山分区 7|9」とあった。萩原山って、大菩薩嶺の南に甲州市上萩原萩原山という地名があるが、その辺りからこの地までもカバーしているのだろうか。よくわからない。
柳沢川の支流;11時分56分(1000m)
林班界境を越えると、またまた落ち葉の敷き詰められた平坦な道が続く。道の右下には柳沢川の支流の沢が見えてくる。美しい眺めである。沢には滝が見える。
大東橋台跡;12時1分(1023m)
滝を右手に想いながら沢に沿って道を進むと、右手に沢に架かる木橋がある。沢の渡河地点であろうと左右を見ると、右手に立派な橋台跡が見える。ここには大東橋があったとのことである。しっかりした橋台である。
藤尾橋:12時6分(標高1014m)
鉄の無骨ではあるが趣のあるこの橋が藤尾橋。ちょっと厳しかった廃道「黒川通り」散歩もこれで終了。橋上から柳沢川の美しい景観を眺め、国道411号を車のデポ地点である三条新橋広場まで戻り、一路家路へと。
「黒川通り」の前半部である船越橋から三重河原までは結構崩壊箇所が厳しそうである、とは予想していたのだが、後半部である三重河原から藤尾橋は楽勝との予想に反し、この箇所も結構厳しかった。昔は危険個所には桟道や鉄橋が架かりそれなりに安全ではあったのだろうが、そういったものはすべて撤去されていたためである。
結論として、「黒川通り」の廃道散歩は石で組まれた美しい道筋は魅力ではあるが、ちょっと危険であり、歩いた当人が言うのもなんだが、あまり散歩にはお勧めできない道であった。
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